東京高等裁判所 昭和44年(う)483号 判決 1969年6月20日
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役一年に処する。
但し本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
押収にかかる大麻たばこ七本(約3.5グラム)(東京高裁昭和四四年押第一二三号の四)は被告人からこれを没収する。
理由
<前略>
一論旨
所論は、要するに、原判決が、司法警察員柳下勝美の本件(イ)、石けん入れケース(東京高裁昭和四四年押第一二三号の二)および(ロ)、洗面用具入れバッグ(同押号の三)各一個並びに(ハ)、大麻たばこ七本(同押号の四)に対する捜索差押は、刑事訴訟法第二二〇条、第一〇二条の規定に適合せず、且つ令状によらない違法なものであつて、憲法第三五条に違反するから、このような違法、違憲の手続によつて収集された右(イ)、(ロ)および(ハ)の諸物件はもとより、司法警審員の作成にかかるこれら物件の(ニ)、捜索差押調書および(ホ)、証拠写真撮影報告書並びに(ヘ)、緊急逮捕手続書中の捜索差押に関する部分や(ト)、神奈川県警察本部刑事部鑑識課技術吏員作成にかかる右大麻たばこ七本の鑑定書から(チ)、原審第二回、第三回および第八回公判調書中における証人柳下勝美の捜索差押に関する各供述記載までも、悉く、証拠能力ないしその証拠としての許容性がないものとして、被告人に対し無罪の言渡しをしたのは、令状によらない捜索差押手続ないし職務行為の適法性或るいは違法に収集された証拠の許容性等に関する最高裁判所および高等裁判所の諸判例〔最高裁判所大法廷昭和三六年六月七日判決(集一五巻六号九一五頁)、同第三小法廷昭和三一年八月二一日判決(集一〇巻八号一二一八頁)、同昭和三〇年二月一日判決(集九巻二号一一九頁)および同昭和二四年一二月一三日判決(特報二三号三七頁)並びに福岡高等裁判所昭和二七年一〇月二日判決(特報一九号一一九頁)、大阪高等裁判所昭和二八年一〇月一日判決(集六巻一一号一四九七頁)、東京高等裁判所昭和二五年三月九日判決(特報一六号四一頁、同昭和二八年一一月二五日判決(特報三九号二〇二頁)、同昭和四一年五月一〇日判決(集一九巻三号三五九頁)および仙台高等裁判所秋田支部昭和二八年一〇月六日判決(特報三五号九四頁)〕と相反する見地に立ち、刑事訴訟法第二二〇条、第一〇二条の解釈適用を誤つた違法があり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れないというにある。
二右の検討
(一) 本件捜索差押等の経緯と前記の諸物件等が証拠として原審公判廷で取り調べられるに至つた経過
1 先ず、本件捜索差押等の経緯についてみるに、<証拠>を総合すると、原判決もその大要を説示しているように、(1)、被告人は、アメリカ合衆国ウエストバージニア州エーガ市に生れて、在日米陸軍警備隊本部中隊に所属する米陸軍三等特技兵であるが、今次ベトナムから日本に向う際、飛行機の中でルドルフ・ベレスと知り会い、同人と共に、昭和四三年二月五日午前四時三〇分頃、神奈川県横浜市中区山下町一番地所在のシルクホテル七階七一四号室に投宿し同室していたが、加賀町警察署司法警察員大室玉樹らは、同日午後一時頃氏名不詳の者より同署に対し、シルクホテルから出て来た外人二人が大麻らしいものを喫つていたという意味の通報があつたため、早速、右シルクホテルに赴き、同ホテルで張込みをしていたところ、同日午後三時一〇分頃、前記ペレスが外出先から帰つて来たので、司法警察員今野功らが直ぐ右ペレスを同シルクホテル五階待合所で職務質問し、任意に所持品を検査したところ、同人の所持品の中から大麻たばこ一本を発見したので、直ちに同所で同人を右大麻たばこ一本所持の容疑により現行犯人として逮捕したが、(3)右逮捕後、ペレスより同司法警察員らに対し右シルクホテル七階七一四号室内にある自己の所持品を携行したいとの申出があつたので、同司法警察員らはこれを許すと共に、ペレスに対し逮捕の現場においては令状によらずとも捜索差押ができるから右七一四号室を捜索する旨を告げ、なお同人の要求によりS・Pに連絡し、その到着を待つて、前記五階待合所から七階七一四号室に連行したうえ、(4)、同日午後三時四五分頃から、同人およびS・P二名の立会いの下に、同室者である被告人が外出不在中の右七一四号室の捜索を開始し、同室居間およびベット・ルーム内の所持品については、ペレスに、その所持品を被告人の所持品から区別させたうえ、ペレスのものとして区別されたもののみを捜索した後、(5)、引続き同室洗面所内の捜索に移つたのであるが、同洗面所における所持品については、ペレスにその所持品を被告人の所持品から区別させないで、捜索をしたものであるところ、同日午後四時一〇分頃同洗面所の棚の上から内容物の入つた洗面用具入れバッグを発見し、ペレスからは右洗面用具入れバッグは自分のものではなく被告人の所持品である旨の申し出でがあつたけれども、その内容を捜索した結果、被告人の名前の入つた書類等のほかに、大麻たばこ七本が入つた石けん入れケースが認められたため、司法警察員柳下勝美において、直ちに被告人所有の右洗面用具入れをその大麻たばこ七本等の内容物と共に差押えて、ペレスに対する捜索を終えたのであるが、(6)、その後、同日午後五時三〇分頃、被告人が外出先きから帰つて来たところを、同人についても右のような大麻たばこ所持の容疑があつたため、司法警察員大室玉樹において、直ちに右七一四号室で、被告人に対し右洗面用具入れの所有者について職務質問をしたところ、同人がその所有に係るものであることを認めたため、直ぐその場で同人を右の大麻たばこ七本を所持したという容疑によつて緊急逮捕したうえ、(7)、さらに捜索を行いその時同人が着用し、左胸ポケットにごみが附着していた半袖シャツ一枚を差押え、爾来捜査官において関係人から事情を聴取するなど証拠の収集に従事し、殊に同月六日には神奈川県警察本部刑事部鑑識課技術吏員吉村武彦に対し右(5)の大麻たばこ七本および(7)のごみにつき鑑定をさせたところ、同月二一日には右半袖シャツに附着していたごみには大麻草と思われるものが認められ、また同月二七日には右大麻たばこ七本は大麻取締法にいう大麻草(カンナビスサテイバ・エル)と認められるという趣旨の鑑定結果が出たことなどの諸事実が明らかである。
2 次ぎに、前記の諸物件等が証拠として原審公判廷で取り調べられるに至つた経過についてみるに、記録によると、被告人は、前記大麻たばこ七本の隠匿所持の事実につき、昭和四三年四月八日横浜地方検察庁から大麻取締法違反の罪名(罰条は、同法第二四条の二第一号、第三条第一項)で起訴せられたが、同年五月一六日の原審第一回公判で、冒頭に、大麻が起訴状記載の所に在つたことは事実であるけれども、自分はその存在を知らず、化粧箱(起訴状では化粧道具入れ、領置目録および原判決では洗面用具入れ)の中に大麻が入つていたことは、後で警察官から見せられて初めて知つたのであり、これは自分が隠匿所持していたものではない旨の供述をしたため(1)、同公判で立会いの検察官は、公訴事実を立証する証拠として、前記(イ)、(ロ)および(ニ)ないし(ト)並びに(チ)の証人柳下勝美を他の諸証拠と共にその取調べの請求をしたところ、被告人は、右の(ヘ)についてはこれを証拠とすることに同意し、(チ)の証人については何ら異議を述べなかつたが、(ホ)についてはこれを証拠とすることに同意せず、(イ)、(ロ)、(ニ)および(ト)については意見を留保したため、原裁判所は、(へ)および(チ)の証人についてその採用を決定し、(ヘ)を取調べ、(ホ)を却下したうえ、(チ)の証人については、同年六月六日の第二回、同月一一の第三回および同年一〇月二四日の第八回の各公判でその尋問を行い(尤も、検察官は、昭和四三年九月三日の第六回公判で、(チ)の証人を在廷証人として再申請したが、被告人が、不必要である旨の意見を述べたため、原裁判所は、一旦これを却下したものの、同月二四日の第七回公判で、右の却下決定を取り消したうえ、前記第八回公判で更らにその尋問を行つている。)、(2)、右第二回公判で、検察官が再度右(ホ)の取調べを申請したところ(原審第二回公判調書末尾添付の証拠関係カードに昭和四三年二月一〇日附とあるのは、明らかに同月一三日附の誤記と認められる。)、被告人もこれを証拠とすることに同意したため、原裁判所は、これを採用して、その取調べを行い、(3)、右第三回公判で、被告人が右(ニ)を証拠とすることに同意したため、同裁判所はこれを採用して、その取調べを終え、(4)、昭和四三年七月一三日の原審第四回公判で、被告人が右(ト)についてもこれを証拠とすることに同意し、右(イ)および(ロ)については、これを証拠とすることに異議がない旨を述べたため、同裁判所はこれを採用して、右(ト)については同公判でその取調べを行い、右(イ)および(ロ)については、同月二三日の第五回公判でその取調べを終え、更らに、(5)、前記第六回公判で、検察官が右(ハ)の取調べ請求をしたところ、被告人は、違法収集の証拠であるとしてこれを証拠とすることに異議を述べたけれども、同裁判所は、これを採用して、その取調べを行つていることなどの諸事実がわ窺れる。
(二) 前記諸物件等の証拠能力ないし証拠としての許容性
1 本件捜索差押等の経緯および本件諸物件等が証拠として原審公判廷で取り調べられるに至つた経過は、右にみて来たとおりであり、問題は、専ら、前記(ハ)の大麻たばこ七本に証拠能力ないし証拠としての許容性があるか否かの点にあり、その余の証拠たる前記(イ)、(ロ)および(ニ)ないし(チ)の証言に証拠能力ないし証拠としての許容性があることは、到底否定できないところである。
2 原判決は、右の(イ)、(ロ)および(ニ)ないし(チ)の証言についても、悉く、その証拠能力ないし証拠としての許容性がない旨説示しているけれども、右に述べたような本件捜索差押等の経緯、殊にこれらが証拠として原審公判廷で取り調べられた経過ないし右(イ)および(ロ)については本件公訴事実との関連性も十分立証せられていることなどに徴し、この点に関する原審の判断は失当であつて、たやすくこれに賛同することはできない。そして、このことは、論旨指摘の最高裁判所大法廷昭和三六年六月六日判決、集一五巻六号九一五頁が、麻薬取締法違反被告事件において、麻薬取締官作成の捜索差押調書および捜索差押に係る麻薬の鑑定書につき、被告人および弁護人が第一審公判廷において、これを証拠とすることに同意し、異議なく適法な証拠調べを経たときは、右各書面は、捜索差押手続の違法であつたか、どうかに拘らず証拠能力を有すると判示していることなどからしても、十分肯定できるところである。これらの諸証拠は、証拠能力ないし証拠としての許容性に何ら欠くるところがないものと解するのが相当であり、この意味において、所論中のこの点に関する論旨は理由があるものというべきである。
3 そこで、更らに進んで前記(ハ)の大麻たばこ七本に証拠能力ないし証拠としての許容性があるか否かの点につき審究すると、右大麻たばこ七本の捜索差押は、既にみて来たとおり、刑事訴訟法第二二〇条所定の現行犯人ペレスを逮捕する場合における逮捕の現場での捜索差押として、令状によらずになされたものであることが明らかであるところ、憲法第三五条は、逮捕状による逮捕と現行犯による逮捕との場合を除いては、司法官憲の発する捜索差押の令状がなければ、何人も住居、書類および所持品について侵入、捜索および押収を受けない旨規定し、刑事訴訟法第二二〇条は、右令状主義の例外として、被疑者を逮捕する場合において必要があるときは、逮捕の現場で令状によらない捜索差押をすることができる旨を定めているが、かかる例外規定は、捜索差押が人権侵害の危険性を伴うものであることに鑑み、令状を不要とする十分合理的な理由がある場合に限つて、適用されるように、これを厳格に解釈すべきものであることは、原判決のよく説示しているとおりである。
所論は、司法警察員は、ペレスの申立てに接して、同人が言葉の通じないアメリカ合衆国の兵隊であることから、無用なトラブルを回避するため、同人の申立てを容れ、専ら、同人の利益のために、逮捕時に直ちに可能であつた捜索差押の開始を猶予したものであるから、同人の人権の保障に悖るところがなかつたようにいうけれども、ここに考うべきは、唯だ同人の人権ということだけではなく、更らに被告人の人権についても同様であるといわなければならない。
ところで、右の大麻たばこ七本は、前記のとおりペレスが昭和四三年二月五日午後三時一〇分頃前示シルクホテル五階待合所において大麻取締法違反の現行犯人として逮捕された後で、被告人が同日午後五時三〇分頃同ホテル七階の前示七一四号室において本件の容疑で緊急逮捕される前である同日午後三時四五分頃から同四時一〇分頃までの間に同室の洗面所で司法警察員によつて捜索差押えられたものであるところ、前示の最高裁判所大法廷判決は、司法警察員の職務を行う麻薬取締官が、麻薬不法譲渡罪の被疑者を緊急逮捕するため、その家へ赴いたところ、被疑者が他へ外出中であつたの で、帰つて来次第同人を逮捕する態勢の下に、同人方の捜索を開始して、麻薬を押収し、捜索の殆んど終る頃になつて漸く帰つて来た同人を適法に緊急逮捕した場合には、捜索差押が緊急逮捕に先行したとはいえ、時間的には二〇分位しか経過しておらず、これと接着しており、場所的にも逮捕の現場でなされたものであるときは、その捜索差押をもつて違憲、違法とすべき理由はない旨を判示している。
そこで、右のようなことから、所論は、本件の捜索差押につき、ペレスを逮捕した場所と右の捜索差押をした場所とは場所的に同一性が認められ、更らにペレスを逮捕した時刻と右の捜索差押をした時刻とは時間的に接着していると認むべきものである旨主張している。
思うに、刑事訴訟法第二二〇条第一項第二号が、被疑者を逮捕する場合、その現場でなら、令状によらないで、捜索差押をすることができるとしているのは、逮捕の場所には、被疑事実と関連する証拠物が存在する蓋然性が極めて強く、その捜索差押が適法な逮捕に随伴するものである限り、捜索押収令状が発付される要件を殆んど充足しているばかりでなく、逮捕者らの身体の安全を図り、証拠の散逸や破壊を防ぐ急速の必要があるからである。従つて、同号にいう「逮捕の現場」の意味は、前示最高裁判所大法廷の判決からも窺われるように、右の如き理由の認められる時間的・場所的且つ合理的な範囲に限られるものと解するのが相当である。
これを右の大麻たばこ七本に関する捜索押収についてみると、成る程、ペレスの逮捕と同(ハ)の捜索押収との間には、既に述べたように、時間的には約三五分ないし六〇分の間隔があり場所的には、原審第四回公判調書中における証人石原金次の供述記載並びに前示原審第二回、第三回および第八回公判調書中における証人柳下勝美の各供述記載のほか、当裁判所の検証調書および当審第二回公判における証人吉良欣展の供述並びに当審で取り調べたシルクホテルのマッサージ、訪問客に関する案内カードおよびシルクホテの貴重品、部屋鍵に関すルる案内カード等から窺われるようなシルクホテル五階の、なかば公開的な待合所と同ホテル七階の、宿泊客にとつては個人の城塞ともいうべき七一四号室との差異のほかに若干の隔りもあり、また若し同(ハ)の大麻たばこ七本がペレス独りのものであつたとするならば、いくらペレスが大麻取締法違反の現行犯人として逮捕されたとはいえ、否却つて逮捕されたればこそ、更らに捜索差押が予想されるというのに、わざわざ自ら司法警察員らを自己の投宿している同七一四号室に案内したということについては種々の見方があり得るであろうし、なおペレスが同室の洗面所で司法警察員らに対し同大麻たばこ七本は自分のものではなくて、被告人のものである旨述べていることなどからすると、同たばこに対する捜索押収が果して適法であつたか否かについては疑いの余地が全くないわけではないけれども、既に見て来たような本件捜査の端緒、被告人とペレスとの関係、殊に二人が飛行機の中で知り合い、その後行動を共にし、且つ同室もしていたこと、右のような関係から同たばこについても或るいは二人の共同所持ではないかとの疑いもないわけではないこと、ペレスの逮捕と同たばこの捜索差押との間には時間的、場所的な距りがあるといつてもそれはさしたるものではなく、また逮捕後自ら司法警察員らを引続き自己と被告人の投宿している相部屋の右七一四号室に案内していること、同たばこの捜索差押後被告人も一時間二〇分ないし一時間四五分位のうちには同室に帰つて来て本件で緊急逮捕されていることおよび本件が検挙が困難で、罪質もよくない大麻取締法違反の事案であることなどからすると、この大麻たばこ七本の捜索差押をもつて、直ちに刑事訴訟法第二二〇条第一項第二号にいう「逮捕の現場」から時間的・場所的且つ合理的な範囲を超えた違法なものであると断定し去ることはできない。また、このように考えることが、前示最高裁判所大法廷の判決の趣旨にも副うものであると解する。
なお、右(ハ)の大麻たばこ七本が証拠として原審公判廷で取り調べられるに至つた経緯は既にみて来たとおりであり、またその捜索差押には必らずしも違法があるとはいえないことも右に述べたとおりであるが、押収物は、仮りにその押収手続に違法があつても、物それ自体の性質や形状に変異を来すはずがないから、その形状等に関する証拠たる価値に変りがないことは、論旨の引用するような諸判例を待つまでもなく、当然のことであり、また、記録によると、同大麻たばこ七本については、本件公訴事実との関連性も十分立証されていることが明らかであるから、原裁判所がこれを証拠調べしたこと自体には、何の違法もない。
以上の次第で、右大麻たばこ七本も、本件の証拠として、その証拠能力ないし証拠としての許容性に欠くるところはなく、この意味で、所論中のこの点に関する論旨は理由があるものということができる。
(三) 結論
してみれば、原判決は、その余の論旨につき判断をするまでもなく、既に右の諸点において、刑事訴訟法第二二〇条、第一〇二条の解釈適用を誤つた違法があることに帰し、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があるものとして、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三七九条により、原判決を破棄したうえ、同法第四〇〇条但書に従い、当裁判所において更らに自ら判決をすることにする。
三自判
(罪となるべき事実)
被告人は、在日米陸軍警備隊本部中隊所属の米陸軍三等特技兵であるところ、昭和四三年二月五日午後四時一〇分頃、法定の除外事由がないのに、神奈川県横浜市中区山下町一番地所在のシルクホテル七階七一四号室洗面所において、洗面用具入れバッグ(東京高裁昭和四四年押第一二三号の三)の中に入れておいた石けん入れケース(同押号の二)の中に、その頃他より入手した大麻たばこ七本(約4.9グラム)(同押号の四は、鑑定に使用した残りで、約3.5グラム)を隠匿して、所持していたものである。
(証拠の標目省略)
(法令の適用)
法律に照らすと、被告人の判示所為は、大麻取締法第三条第一項に違反し、同法第二四条の二第一号に該当するので、本件犯罪の性質および態様、数量、本件の社会的影響並びに被告人の年令および身上など被告人にとつて有利または不利な一切の事情を考量したうえ、その刑期範囲内で、被告人を懲役一年に処し、被告人に対しては、情状その刑の報行を猶予するのが相当と認められるので、刑法第二五条第一項により、本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、押収してある大麻たばこ七本(約3.5グラム、判示の約4.9グラムから約1.4グラムが鑑定に使用されて残つたもの)は、判示の犯罪を組成した物で、犯人以外の者に属しないので、刑法第一九条第一項第一号、第二項本文により、すべて被告人からこれを没収し、原審および当審における訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項但書により被告人に対してはすべてこれを負担させないこととする。
よつて主文のとおり判決する。(松本勝夫 竜岡資久 藤野英一)